読書2014年

2014年12月23日 (火)

『ローマ人の物語 27・28 ~すべての道はローマに通ず~』 / 塩野七生 著

久しぶりに塩野七生さんの『ローマ人の物語』(新潮文庫)を読んだ。
今回読んだのは、文庫本の27巻と28巻で「すべての道はローマに通ず」とのタイトルが付けられている。

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文庫本の27巻、28巻「すべての道はローマに通ず」は、古代ローマの歴史を描いた『ローマ人の物語』の中ではちょっと異色な作品で、長大な歴史物語のちょうど中間どころでの閑話休題的に、古代ローマの歴史を語る上で、主役のひとつであると言っても過言ではないインフラ整備について書かれた作品だ。

広大なローマ帝国内にくまなく整備された街道網。そして、都市にきれいな水を供給するために整備された上水道、清潔さを保つための下水道。

これまでの『ローマ人の物語』の中においても、塩野さんは古代ローマのインフラ整備についてことあるごとに詳細に述べてきていた。
「すべての道はローマに通ず」は、歴史を時間軸に沿って描くのではなく、インフラ整備という横軸で古代ローマ1000年の歴史を俯瞰した労作だ。

それにしても、2000年も昔の古代ローマ人たちが道路や上下水道といったインフラの重要性を認識し、当時の土木技術の粋を集めて、素晴らしい街道網や上下水道を整備していたことにはただただ驚嘆するしかないが、これこそがまさに古代ローマ1千年の栄華の秘訣だったのではないかと思われる。

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2014年12月21日 (日)

『太平洋戦争のif〔イフ〕』 / 秦 郁彦 編

秦 郁彦 編 『太平洋戦争のif〔イフ〕』(中公文庫)を読んだ。

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太平洋戦争が開戦した12月8日前後には毎年、太平洋戦争関連の本を読むようにしているのだけど、今年は『太平洋戦争のif』を読んでみた。

真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル、レイテ、本土決戦と、太平洋戦争の重要な局面において、史実とは異なる「イフ」(もしも…だったら)を論じた意欲的な太平洋戦争史で、各テーマともになかなか興味深く読むことができた。

歴史に「イフ(もしも)」を持ち込むことは邪道とも言われているが、本書は単なる「もしも本」ではなく、史実をベースにしながら、当時の様々な資料を厳密に分析し、「もしもこうだったら、どうなっていたか」をシミュレートした一種の研究本だ。

史実を史実として知っている僕たちからすれば、「もしも」を考えてみることにより、歴史の大勢までは変わらないまでも、小さな流れや展開が少しは変わっていたのではないかと思われるところが実に興味深くておもしろい。

そして、「もしも」を考えてみたところで、先の大戦は負けるべくして負けたということを改めて考えさせられた一冊だった。

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2014年11月30日 (日)

『カペー朝 フランス王朝史1』 / 佐藤賢一 著

佐藤賢一さんの『カペー朝 フランス王朝史1』(講談社現代新書)を読んだ。

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現代日本におけるフランス歴史小説の第一人者 佐藤賢一さんの作品を読むのは初めてだったけど、新書本ということもありとても読みやすく、おもしろかった。

西洋史の中でも僕はフランスの歴史はなぜかあまり好きではなく、フランスの歴史モノはこれまでほとんど読んだことがない。

ルーヴルとかヴェルサイユとか、栄華を極めたフランス王朝の宮殿を訪れてもなぜか、イギリスやオーストリア、チェコなどの歴史的建造物を訪れたときのような感動や興奮を覚えることがなかった。

というのも、僕はフランスの歴史にほとんど興味がなかったからかもしれない。

今回読んだ『カペー朝』は、フランス革命によって共和制に取って代わられることになるフランス王政のまさに幕開けとなったカペー朝の物語だ。

987年から1328年まで、340年間の長きにおよぶカペー朝。群雄割拠する10世紀末のフランス、地方の一豪族に過ぎなかったカペー家が、15代にわたる諸王の奮闘によって、巨大なフランス王朝を築き上げていく物語は、非常に興味深くておもしろい。
ワクワクしながら一気に読み切った。

こうなると続編の『ヴァロワ朝』も読みたいし、佐藤賢一さんが現在刊行中の大作『小説フランス革命』も読んでみたくなったのだ。

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2014年11月16日 (日)

『ロックの歴史』 / 中山 康樹 著

中山康樹さんの『ロックの歴史』(講談社現代新書)を読んだ。

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中山康樹さんの音楽本はこれまでに何冊も読んできたが、今回の『ロックの歴史』も中山さんの豊富な知識とマニアックな思い入れがびっしりと詰まった一冊で、とてもおもしろく読んだ。

「ロックンロールはいかにして「ロック」になったか」という帯書が示すとおり、現在のロックがいかにして生まれてきたかを明快に論じている。

アメリカで生まれたロックンロールやR&B(リズム・アンド・ブルース)、ジャズといった音楽が、1950年代に洋楽としてイギリスに入り、そうした多様な音楽が受容、融合、統合されてロックが生まれた。そして、1964年、ビートルズがアメリカ上陸を果たし、それによってイギリスのロックがアメリカ、そして世界へと広がっていき、現在のロックが形作られていく。

イギリス、アメリカの様々なミュージシャンが次から次へと登場し、ロックという音楽を形成していく過程は読んでいてすごく興奮する。

まったく、1950年代から60年代という時代の若者のエネルギーやパワー、創造性や革新性といったらスゴイとしか言いようがない。

ロックが聞きたくなる一冊なのだ。

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2014年11月 8日 (土)

『ローマ亡き後の地中海世界①~④』 / 塩野七生 著

塩野七生さんの『ローマ亡き後の地中海世界①~④』(新潮文庫)を読んだ。

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西ローマ帝国が滅亡した5世紀から16世紀までの1千年におよぶ地中海世界を描いた歴史大作で、読み応え充分。これまでほとんど何も知らなかった中世という時代のことがよくわかり非常におもしろかった。

一般的にヨーロッパの中世は暗黒の時代と呼ばれていて、僕たち日本人からすれば世界史の授業でもほとんど触れられることもなく、よく知らない時代だ。

476年、西ローマ帝国が滅亡し、ローマ帝国による平和、「パクスロマーナ」が終焉した後の地中海世界は、キリスト教世界とイスラム教世界の対立が続いた戦乱と混乱の時代だった。

塩野さんはいつもながら非常に豊富な資料や知識をベースに、1千年以上にわたる中世地中海世界の歴史を丁寧に、そして絢爛に描きあげていく。読者である僕たちはどんどん歴史世界に引きずり込まれていく。

それが塩野作品を読むことの最大の魅力なのだ。

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2014年8月31日 (日)

『百年前の山を旅する』 / 服部文祥 著

服部文祥の山行記『百年前の山を旅する』(新潮文庫)を読んだ。

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この山行記の非常にユニークなところは、著者の服部文祥さんが、普通の登山ではなく、サバイバル登山に挑んでいるところだ。
サバイバル登山とは?
僕も本書を読んで初めて知ったのだけど、いわゆる現代の登山装備を持たず、狩猟をして食料を自ら確保しながら登山をする、そんな文字通り生き残りをかけて行う登山だ。

なぜ、そのような登山をするのか?
現代の登山は、様々な近代的な装備品によって非常に便利でお手軽になった。
しかしその反面、自然と向き合い触れ合う度合い、自然の中に溶け込む度合い、自由度は低くなっている。
服部さんは、あえて近代的な登山装備を排除することで、100年前、日本登山の黎明期の人々が山で体験していたであろうディープで生々しい登山体験、自然との対峙、自由の獲得を目指しているのではないだろうか。

今までに読んだことのないような山行記で、最初から最後まで非常に興味深く読んだ。
そして、この山行記は、登山者にとっての永遠の課題、「人はなぜ山に登るのか」という問いに対するひとつの答えに到達しているように思うのだ。

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2014年3月 9日 (日)

『垂直の記憶』 / 山野井 泰史 著

山野井泰史さんの『垂直の記憶』(ヤマケイ文庫)を読んだ。

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今年の1月、モンベル松山店のオープニングイベントで山野井さんの講演があった際に購入、サインをいただいていたものだ。

僕は山野井さんのことは、沢木耕太郎の『凍』を読んで、そのモデルとして知っていたのだけど、改めてこの『垂直の記憶』を読んで、すごいクライマーなんだってことを思い知った。

何がすごいといってやはり、山にかける情熱、自分の限界に挑戦しようとする熱意、そこに挑むための努力、そして山で死ぬことの覚悟だ。

『垂直の記憶』は、山野井さんがこれまでに登ってきた山々の登攀記だ。読んでみてまず思うのは、文章が実に生き生きとしていることだ。登山者としても日本を代表する先鋭的クライマーだけど、文章家としても超一級だと思う。

小西政継にしても植村直己にしてもガストン・レビュファにしても、一流の登山家には一流の文章家が多いが、山野井さんもまたしかり。あらゆる事象の鋭い観察眼、自己分析と自己抑制。登山家に必要な能力が文章を書くうえでもうまく機能しているってことだろうか。

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圧巻はやはり何と言ってもギャチュン・カン北壁の登攀記。山野井夫妻がギャチュン・カン登攀中に雪崩に巻き込まれ遭難し、絶望的状況の中から奇跡的な生還を果たすまでの壮絶な記録だ。小説『凍』でもすさまじい描写に圧巻されたが、山野井さん自身の筆で読むと、フィクションとはまた異なり、強烈に迫り来るものがある。

生還を果たすも凍傷で手足の指を失ってしまった山野井さん。もはや登山など不可能と思われたが、現在もまた山に登っている。かつてのような先鋭的な登攀はできないとしても。

巻末の後藤正治さんの解説の次の言葉が印象的だ。

「先鋭登山におけるファイナリストとしての山野井泰史は終わった。けれども、プレーヤーはグランドを去ってはいない。いま現在の条件下で、自身にとってぎりぎりの目標を設定し、それに向けて肉薄するという志向はなんら変わっていない。」

いつの日か山野井さんの『垂直の記憶2』を読んでみたいと思う。

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2014年2月 9日 (日)

『冬山の掟』 / 新田次郎 著

新田次郎の短編小説集『冬山の掟』(文春文庫)を読んだ。

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冬山での遭難をテーマにした短編小説が10編。テーマがテーマだけに、各作品の緊迫感は半端なく、最初の数行を読んだだけで、グイグイとそれぞれのシーンに引き込まれていった。

生死の境目をただよう登山者たちの姿には、レベルは違えども、同じ冬山を登る者として人ごとには思えないものがある。

そして、『冬山の掟』に集録された10編の遭難小説では、男女間の微妙な心の揺れ、男同士のプライドのしのぎあい、意地の張り合いといった、つまらないことが原因で遭難に至っている。このあたりの心理描写は、さすがは新田次郎ならではのおもしろさだ。

解説は作家の角幡唯介氏で、氏の「山では露骨に登る者の人間性が試される。」という言葉が、『冬山の掟』に集録された10編の核心に迫っているように思う。

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2014年2月 2日 (日)

『ローマ人の物語 24~26・賢帝の世紀』 / 塩野七生 著

塩野七生さんの『ローマ人の物語 24~26 賢帝の世紀』を読んだ。

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『ローマ人の物語』を読むのも久しぶり。今回の24巻から26巻では、紀元2世紀、「黄金の世紀」と呼ばれたローマ帝国の全盛期をもたらせたトライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの三皇帝の時代を描いた作品だ。

一般的には、トライアヌスの前、ネルヴァと、アントニヌスの後のマルクス・アウレリウスを加えた5人の皇帝の治世を五賢帝時代と呼ばれているが、中でも特筆すべきはやはりトライアヌスからアントニヌスまでの3人だろう。

ローマ帝国の領土はこの時代に史上最大を誇り、パクス・ロマーナ(ローマによる平和)も帝国全土に及び、まさにローマ帝国の絶頂期を迎える。

それを可能にした3人の皇帝の業績をていねいに追っていく塩野さんの筆致はいつもながら素晴らしいとしか言いようがない。文献や資料を徹底的に調べ上げた豊富な知識と鋭い洞察には圧巻される。

指導者に求められる資質を備え持ったタイプの異なる3皇帝が、次々とバトンタッチしていった幸福な時代。こうした流れを読んでいると、歴史の“必然”を感じずにはいられない。

そして、古代ローマ時代のままで現代に残る唯一の建造物と言われているパンテオン。ハドリアヌスが土台から造り直した歴史的建造物だけど、以前、僕がローマを訪れたときにも2000年の時を越えてそこに現存していた。

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読んでいるだけで時空を越えた歴史ロマンを感じるのだ。

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